日本でも「司法取引制度」が始りました。ハリウッド映画ではお馴染みのアメリカの司法取引とは大きな違いがありました。その違いのために冤罪が生まれる恐れがあると危惧されています。あのホリエモンも警告を発するこの制度は何が問題なのか?簡単に説明します。
目次
そもそも司法取引制度とは?
自分の罪を認めたり、他人の犯罪を捜査機関に明かす見返りに自身の刑事処分が軽くなる制度です。アメリカの映画でちょくちょく見かけますよね。それが、日本でも始ろうとしています。
司法取引制度 自分VS他人
司法取引制度には大きく分けて二つのタイプがあります。
それは、自己負罪型と他人負罪型です。
*自己負罪型
→自分の容疑のうち、一部を認める代わりに他の犯罪事実について立件しないことや処罰を軽減することを約束する。:アメリカで主流
*他人負罪型(捜査協力型)
→他人の犯罪事実についての供述をすることで自らの処罰を軽減してもらう。
このうち他人負罪型のみが日本で導入されました。
どの様な犯罪が対象になるのか?
適用されるのは、
銃刀法違反・覚醒剤取締法違反・経済犯罪の横領・贈収賄・脱税・詐欺などです。
殺人や傷害などは対象外です。
導入の目的は、犯罪組織全体を撲滅する為に導入されました。
いわゆる「オレオレ詐欺」や「薬物犯罪」の組織撲滅などに効果が期待されています。
司法取引するにあたり立ち会う人達
司法取引を公正にする為に、取引する時には厳格な決まりがあります。
捜査機関(検察)と被疑者(被告人)の間で同意書を作るのですが、この時被疑者の弁護人の同意も必要になります。
被疑者とその弁護人、検察官が全員署名のもと合意文書を作成します。
罰則規定も明記
被告人が罪を逃れるために、全く関係無い他人を巻き込むことを防ぐために、虚偽の供述をした時は、5年以下の懲役という罰則規定も明記されます。
司法取引で被告人が得られるものとは?
司法取引をすることにより、得られる減刑は次の様な物が想定されています。
1.用する罰条つまり犯罪を軽いものに変更する、
2.求刑を軽いものに変更する
3.起訴の見送りや取り消し
気になるのが3番の「起訴の見送りや取り消し」ですね。
これ本当にあるのでしょうか?
もともと日本人は、罪を犯したならそれを償うのは当たり前と考える人が多いと思います。今まで、司法取引制度が日本で導入されていなかった要因の一つがこの国民感情と言われています。
なので、司法取引で起訴しない=釈放となるのですが、なかなか納得しずらいですね。
ホリエモンも懸念する冤罪の大量発生問題
今回の制度は他の人を巻き込んで自分の刑を減刑する制度です。
なので苦し紛れに被告人が、全く関係無い他人を巻き込む恐れがあります。
堀江貴文さん(*注)ですが2015年7月に「録音・録画といった取り調べの可視化の義務化などを柱とする刑事司法改革関連法案を審議する衆院法務委員会」に参考人として呼ばれ意見を述べています。これは国会でひらかれた会議です。
その中で2点気になりましたので、下の方に(感想の後に)引用し掲載します。興味が無い方は飛ばしてもらっても結構です。
堀江氏の意見に関して私の感想
堀江氏も引用その1で意見していますが、拘留期間が長くなると、一種の洗脳状態になり、やってもいないこと(堀江氏の例なら代議士に送ったメールなど。このメールは犯罪を裏付ける証拠だとさわがれましたが、このメールは結局デマでした)をさも自分でやったように思い込む状態になる事が在る!と言っています。
担当弁護士以外、20日以上誰にも会えなくなると精神的に相当追い込まれるのは想像に難しくないですね。
今回の司法取引制度では、「あなたが横領の主犯です」と部下の誰かが言ったとすると、最悪警察に拘留され尋問されます。拘留期間は通常は最大20日間ですが、延期が出来ます。堀江氏は94日間も拘留されました。
国会で問題になった籠池さんは300日拘留されました。籠池さんは、罪状を否認したので長く拘留されたようです。否認すると、拘留はどうしても長くなります。
警察も当然、被疑者の供述を鵜呑みにはしないでしょうが、「警察に同行して詳しいことを聞かせて欲しい」とかはあるかもですね。疑惑が晴れても、周り(会社や同僚、取引先)の印象は、良くないですね。
万が一拘留された場合、引用その2にもありますが、長く拘留されて参っている時に、検察側に罪を認めたら減刑すると言われると、無実の罪を認めたくなるかも知れません。堀江さんの意見書を見ていると、それぐらい追い詰められます。
最も堀江氏の場合は冤罪ではなく、ほぼ黒(*注2)ですのでこれからのケースに当てはまらないかも知れません。ですが、私も含め、あなたもいつ拘留・尋問されるかも知れない時代が来たのだと思います。
アメリカ型より怖い日本型の司法取引
次の記事が大変参考になりました。引用します。
*2018年5月26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』より
郷原信郎弁護士(元東京地検検事)は「アメリカと日本では刑事裁判のやり方が違っていて、アメリカでは司法取引をしてしまえば裁判なしで有罪となりおしまい。他の人には影響はない。ところが日本の場合、自白して争っていない事件でも一応裁判官が判断する上、司法判断が分かれてしまうことを避けようとするので、他の人の裁判が影響を受ける」と話す。
「先に贈賄側で有罪が確定し、その後で収賄側の裁判が行われる場合、後者で無罪判決が出るケースはほとんどない。なぜなら、贈賄事件の判断が間違っていたということになってしまうからだ。そこがアメリカとの大きな違い。その違いを考えずに他人負罪型の司法取引だけを導入するので、堀江さんが指摘する通り虚偽供述による”引き込み”の危険性が大きくなると思う」。
出典:http://blogos.com/article/274144/
アメリカは、裁判前でも事前に検察、容疑者と弁護士、裁判官の間で協議して判決出すことが在るそうです。裁判をしないのですね。特に司法取引した時はこの傾向が多いといいます。
ワイドショーでこの話を聞いた私は、合理的なアメリカらしいと感じると同時に、それだけ裁判が多いので裁判そのものを減らしたいのだと思いました。
ともあれ、日本での適正な運営を望みます。
ここから堀江氏の意見の引用です。
2015年7月10日「録音・録画といった取り調べの可視化の義務化などを柱とする刑事司法改革関連法案を審議する衆院法務委員会」より引用。長文でしたので一部抜粋しました。
引用その1 拘留についての意見
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単なる勾留ではなくて、私の場合は、経済事犯でしたので、「接見禁止命令」というのが付きまして、担当の弁護士さん以外は誰にも会えないと。そして雑誌・新聞の閲覧もまかりならんということが94日間続きまして、非常に孤独で隔絶された世界におりました。
これは、被告人・被疑者にとっては、非常に精神的に不安になっておりまして。かなりの精神的プレッシャーで、脳の記憶が書き換えられてしまうぐらいの記憶になります。村木さんもおっしゃってましたけれども、自分がやっていないことを、さもやっているかのように思ってしまうと。
例えばあの時、事件になった主犯格といいますか、書類を書き換えた元係長は、村木さんと1回も面識がないにもかかわらず、さも共謀したかのように検察官が供述調書とか、そういったところで取り調べをやっておりましたけれども。そういったことは実際に起こりうると。その後の村木さんの話ですけれども、実際にその係長と、判決が出た後に会って、「お互いに会ってないよね」ということを確認し合ったという風に言われています。
私は勾留中、「偽メール事件」というのがありまして。僕が送ってもいないような、自民党の元代議士の方にウン千万円送ったなんてメールを。ごめんなさいね、民主党の方々。民主党の某議員が「送ったというメールが出てきた」と言って大騒ぎになってましたけれども。
僕はその時、東京拘置所に勾留されておりまして、「こんなの絶対、俺やらないよな」って。もちろん、そんなメールは送ってないんですけれども、それでも不安になってしまう。もしかして、万が一、酔っ払って送ったかもしれないとか。本当に思っちゃうんですよね。絶対自分はそんなことはしないって思っているのに、思ってしまうぐらい、極限的精神状態におかれます。
司法の世界においては、被疑者・被告人と検察官というのは立場的にこんな感じなんです。検察官のほうが、ものすごく立場が高い状況にありますので、これで本当にフェアな取り調べが行われるのかどうかっていうのは、非常に疑問です。
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引用その1 ここまで
引用その2 司法取引制度についての意見
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それともう1つ言っておきたいのは、司法制度改革の中の「司法取引制度」なんですけど、今回初めて日本で導入されました。「司法取引制度」に関して、みなさんご存知だと思いますけれども、日本でも司法取引的なことは、実際行われてます。
例えば、日本では、基本的に検察官が起訴できることになってます。検察官が不起訴であったりとか、起訴猶予っていうのを判断することが出来ると。「検察官起訴便宜主義」ですね。
あと独自捜査権限があります。検察官が独自に捜査をして、独自に起訴することが出来ると。自分が捜査した案件というのは、間違いがないと思って、大体みんな起訴しちゃうんですけれども。今でもすごく検察官が強い立場を持っていて、特に不起訴であったり、起訴猶予にするっていう権限っていうのは、実は主犯格の人達を追い詰める時には非常に有効な手立てで。要は、そういうのを匂わして「不起訴になるかもしれないよ」とか、起訴しても大して求刑しないような雰囲気を、実際に明言している人もいるみたいですけれども。そういった状況にあると。それに対して、私は司法取引を導入すること自体には反対ではありません。
ただし、今回の司法取引に関していうと、主犯格以外の人達が実質的に対象になっていて、ターゲットとされる主犯格の人達の罪を重くする方向で証言すると、アナタの罪一等を減ずると。そういった趣旨の改革になっておって、諸外国、特にアメリカとかの、司法取引制度っていうのは、主犯格の人達も自分の罪を認めることによって、罪一等を減じますよと。
例えば、「執行猶予にしますよ」とか「不起訴にしますよ」とか。そういったことを交渉する余地があるんですけれども、今回、一方通行的な改革になっておりまして。これではむしろ検察官の権限拡大になるのではないかと、私は懸念しております。
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引用その2ここまで
出典:https://logmi.jp/77084
*注:堀江貴文、元ライブドア社長、通称ホリエモン
ライブドア事件(主に会社の粉飾決算と高値の自社株の売り抜け)で2011年4月に懲役2年6ヶ月の有罪が確定。同年6月より長野刑務所に収監された。刑務所では模範囚だったそうで2013年3月に仮釈放された。
ライブドア事件に関しては、ウイッキペディアが詳しいです。良ければ参照してください。
ウイッキペディア:ライブドア事件
*注その2:以下ウイッキペディア堀江貴文のページより引用
堀江氏は、ライブドア事件似関して自分は無罪!と一貫して主張していました。ですがその主張は認められず、有罪が確定ましました。
ここより引用
過去の部下である宮内亮治や熊谷史人はすでに初公判を済ませ、「堀江の指示」を強調し起訴事実を大筋で認めているが、堀江は公判前整理手続に際して、起訴事実を徹底的に否認し、検察側と徹底抗戦していたが、最高裁の上告棄却決定により、堀江側の全面敗訴という結果に終わることとなった。
しかし堀江は、「自分は無罪で、事件は検察側のでっち上げだ」と主張し続け、事件で損害を受けた被害者に対する謝罪や、お詫びをするという反省の態度を、最後まで表明することは無かった。
引用ここまで。
出典:ウイッキペディア堀江貴文
出所後堀江氏は「(部下が)検察と司法取引のようなことをして、私に多くの責任をなすりつけた可能性が高い」と指摘しています。
まとめ
私の個人的な意見ですが当時、堀江氏はライブドア社の社長をしていました。なので、ライブドア事件に関して全く責任が無いとは言えないと思います。
ですが堀江氏が体験した94日間にわたる拘留、長時間にわたる取り調べ。考えただけでもぞっとします。
まきこまれて被告人になるかもしれない時代がきました。
90日間も拘留されると、無実でも会社に復帰できるかどうか?
本当に、適正な運用をのぞみます。