NHKスペシャルで「終わらない人 宮崎駿」を放送していました。
3年前に引退したあと、ほとんど表立った活動をしていませんでした。その宮崎駿監督に700日間見密着!短編フルCG映画の作製にもがく監督がそこに居ました。そして、番組最後には長編アニメの企画書を手にする監督が!!番組の解説と感想です!
目次
タイトルは「毛虫のボロ」
2015年春
宮崎駿監督は、オールCGで15分の短編を作ることになりました。
タイトルは「毛虫のボロ」
毛虫の「ボロ」の誕生から映画が始ります。
ボロの視線で、物語は進みます。
絵コンテには、移動する、食べる、うんこする!などがえがかれています。
毛虫の姿を通して、生きる!ことをもう一度見なおす映画になるようです。(これは、私の感想です)
この映画、監督みずから20数年来、温めてきた幻の企画だそうですが、題材が題材だけに作製する機会が無かったのですね。
ボロは、映画館やTVなどで披露するのではでは無く、ジブリ美術館での上映を目指していました。
目標は、ディズニー映画のジョン・ラセター監督に笑われないような作品にしたい!です。
ジョン・ラセター監督&プロデューサーは、トイ・ストーリーやカーズの監督をつとめ、またアナと雪の女王の製作総指揮を担当しています。
フルCGでアニメ映画を作った先駆者です。
宮崎監督とは友人で交友がありますので、笑われないように!の気持ちはわかりますが、ハードルむちゃくちゃ高いですね。
何せ、フルCGアニメの産みの親みたいな方ですので。
ジョン・ラセター監督を唸らせるのは至難の業だと思いました。
誰もいないスタジオジブリ!!
宮崎駿監督は通常、スタジオのすぐ近所にある、通称「アトリエ」で1日を過ごしていました。
仕事場といっても、キッチンも完備しています。ここは、プライベートな仕事場のようです。
そこで、ジブリ美術館用のパンフレットのデザインや、展示物の企画などを一人で練っていました。
本当に職人さんが一人で黙々と仕事をしている!!そんな雰囲気です。
私は、「もののけ姫はこうして生まれた!」というドキュメントDVDを見ています。
その中での監督のイメージ=多くのスタッフを叱咤激励しながら、スタジオの真ん中で映画の作製に向かう姿が、本当に遠い昔のように感じます。
そして本当にビックリしたのがかつての作業場所、スタジオジブリの心臓部=アニメ製作現場に誰一人いず、部屋の電気が落とされているシーンでした。
映画作製追い込みの時、24時間体勢で動いていた不夜城に誰も居ない!引退を表明してからスタジオを解散させていたのでした。
本当に、引退したんだ!を印象づけるシーンでした。
そのスタジオに久しぶりに灯りがともりました。
ですが、かつての不夜城のイメージではなく、製作現場の本当に一角、八畳ぐらいのスペースだけに灯りがともっています。
今回のCGアニメの位置づけが、このシーンからでもよく分かりました。
冒頭のシーンが上手く行かない!
若いCG作製スタッフを外部から招き入れました。
今回は、そのCGスタッフとの共同制作になります。
ストーリーと動きや表情は宮崎駿監督が指示をだします。
それを、CGスタッフが動きにしていきます。
試作した映画冒頭シーンですが、
ボロが玉子から生まれるシーンがしっくりいきません。
玉子のからを頭にかぶり、外界を玉子の中からのぞき見るシーンですが、これが上手く書けない。
生まれたての赤ちゃんなのに、動きが大人っぽく感じる。
なので、やり直しを指示するが、それでも上手く行かない。
自分のアトリエに戻った宮崎監督が感想を漏らしました。
「ゴミみたいな作品になるかもしれない。
あんなもんなら潰した方が良い。
何十年もの積み重ねがパーになる。
血の雨は未だ降っていない!!
なんどでもやりなおせ!
こんなもの客にみせれるか!」
失望し怒っていますね。
絵でつくるアニメとは勝手が大きく違うようです。
宮崎監督ですが、どうしても玉子からうまれるボロの動きが気にくわない。
なので、とうとう自分でCGをいじり始めます。
ですが、タブレットでボロに動きを付けようとしますが、紙のように上手くいきません。
どうしても冒頭のシーンがうまくはまらない!
これはどうしたら良いのかわからない。
この時点では、模索がまだまだつづきました。
病院へ
2015年12月中旬
この日は、制作現場には監督一人だけでした。
CGスタッフの大半は、スターウオーズの試写会へ行っています。
そしてCGアニメーターの桜木さんは病院へいきました。
「心の病だ」と宮崎監督。
ここ数日、ストレスから体調がよくなかったそうです。
よほど、CGでの表現が上手くいかないことがわかります。
何もしないのはつまらない。
ニヒリスティクにいっているのではない。
だから映画を作っている。
自問自答のように言い聞かせてました。
物語、冒頭の画面の問題解決法!
2016年の初旬、冒頭の場面。
ボロが玉子から生まれるシーンがうまくいかない、それの原因がやっとわかったといいました。
原因は「生き物の気配がしない。」こと!
急遽、「夜の魚を足す!」ことにします。
この夜の魚ですが、見た目、魚のようなお化けのような不思議な生き物です。
その正体不明の生き物をボロの周り空中に飛ばす。
そうすると、画面に動きが出てきて尚且つ、ボロが玉子のからを破り目だけを出してきょろきょろする様子に、魂がこもっているように見えます。
作品作りにおいて、このように、全く最初に予定しなかったことをすることは珍しいそうです。
CGでも手書きでも作品を作る時に、
「ああ、あれをやっとけば良かったと思わないように!」
と、監督は心境を話していました。
今回、映画の最初、ボロ誕生のシーンが上手く行かなかったのでこのように夜の魚を飛ばすような大胆な作に出ました。
負けてたまるか!!
ある日、CGスタッフが作った大きなボロが面白かったそうです。
負けてたまるか!!
宮崎監督の作家根性に火が付きます。
ボロの大群が木の幹に突進していく様子を画用紙に書き始めます。
それをぱらぱらマンガで動かすと見事にボロの大群がうごめいていました。
気持ちが悪いと言えばそれまでですが、私は、この5秒ほどのラフに描いた鉛筆書きの動画をみて、もののけ姫のイノシシの大群が山を越えて、山伏衆につっこんで行くシーンを思い出しました。
わずか5秒ですが、老いても宮崎駿監督健在!と思いました。
ですが同時に今回の挑戦、CGで短編を作るという、まどろこっしさもものすごく感じました。
アイデアを出しても、CGを操ることはできません。
なので、やりたいことができない!
新しい物に挑戦する難しさを感じますね。
ドワンゴの会長 川上量生さんが宮崎監督を訪ねる。
ある日、ドワンゴの会長 川上量生さんが宮崎監督を訪ねました。
川上量生さんはスマホゲームを作ったり、ニコニコ動画の会社を運営しています。カドカワ株式会社の社長も勤めています。
川上さん、なんと2011年に少しの間、スタジオジブリに見習いとして入社していました。その間、無給だったそうですよ!(笑!)
その縁もあり今回、新しいCGの技術を監督の前で披露することになりました。
満員の会議室に後からきた監督は驚きました。
そこの大画面を使ってプレゼンを開始します。
画面には人工頭脳を使って人の動きを模していたCGがありました。
画面の中には、地面をはいくつばって動いている人間もどきが描かれています。
Ai=人工知能が考えた動きですので、人間を模した物にこの動きを与えると不気味な感じになります。
まさに、開発陣はそこを狙っていました。
ドアンゴの川上会長が、
「ゾンビの動きに使うと面白いかも?」
と発言した時の宮崎監督のなんとも言えない顔だけではなく、
怖い目をしていましたね。
明らかに怒っているのがわかります。
身体障害者の友人を思い出した。
笑えない。
人の痛みがわからないのか?
この言葉に、会長以下、その場にいた全員が無言になったのは印象的でした。
あくまでも、実験的に作製したCGなのですが、監督本気で不快感をぶつけていました。
関連記事:宮崎駿が激怒!相手は川上量正ドワンゴ会長!なぜ怒らしたのか?
盟友の訃報
密着中、訃報があり宮崎監督本当にショックを受けていたようでした。
保田道世さん(やすだ・みちよ=スタジオジブリ色彩設計担当)が77歳でお亡くなりになりました。
病気療養中だったそうです。
このことからも、自分には時間が無いと本当に認識したようです。
今年(2016年)、監督は75歳です。
後期高齢者向けの運転免許講習会に行って、自分がじじいだと気づき驚いた。とのエピソードも話していました。
長編映画について
番組中頃では、長編映画について撮影スタッフが尋ねると次の様に答えています。
面白いとかで映画をつくるとだめ!
必ず巻き込んで迷惑をかける。
ひどいことになるから。
心臓が止まるとか!
それ以降、口をつぐみます。
ですが番組後半で、鈴木プロデューサーに手書きの企画書を見せていました。
長編映画をもう一度作りたい!
A4用紙4枚程度の企画書です。
手書きでびっしり書き込みがされているようでした。
当然、企画書大半にぼかしが入っています。
そのなかで、日程表だけがぼかし無しで放送していました。
そこには、3年で完成させたいと書かれていました。
通常、5年掛かるところを3年でできないか?
完成は東京オリンピックの前
完成前には78歳になっている。
そこまで、寿命が持つのか?
そんなことをぼやく監督に鈴木プロデューサーは、
駿さんが亡くなったらヒット間違い無し。
と冗談で言っています。
宮崎監督は、笑えなかった。
傍からこのやりとりをきいていると、不謹慎なことを言っているように聞こえますが、盟友の二人だからこそ言える言葉だと感じました。
宮崎監督は絵コンテの作製に取りかかっていました。
新作の絵コンテ100カット作ったら、良いか悪いか?わかるだろう!!
そういいながらはにかむ宮崎監督の顔には、精気がみなぎっていました。
生きることは映画を作ること!
それにあらためて気がついた!
そんな表情でした。
最後に
宮崎駿監督ですが、CGはやはり似合わないですね。
番組を自分でCGを操作できない分、ストレスがたまるようです。
CG作製スタッフは皆、大変若いです。
CGを作る事には優秀でも、思いや考えを具現化するには別の才能が必要なことがわかります。
ボロの動き一つとっても、監督とCGスタッフの間には大きな溝がありました。
これ、埋めるのは難しいな?と思います。
今回のボロの話は、ジブリ美術館で放映される予定です。どの様な仕上がりになっているのか?楽しみですね。
それと宮崎駿監督の長編、娯楽作品なのか?それとも問題提議の作品なのか?そもそも実現できるのかも含めて、こちらも本当に楽しみです。
関連記事:宮崎駿が激怒!相手は川上量正ドワンゴ会長!なぜ怒らしたのか?